私とマギーズ東京 山本康太さん 〜20代でがん発覚、仕事と治療に悩みマギーズへ〜
マギーズセンターCEO ローラ・リー&マギーズ東京センター長 秋山正子 対談 【後半】「HERE WITH YOU」というメッセージに込めた思い
2021/08/30
英国マギーズセンターCEOローラ・リー(以下、ローラ)と、マギーズ東京センター長秋山正子(以下、秋山)によるオンライン対談。後半は、今マギーズセンターが国際ネットワーク全体で発信する「HERE WITH YOU」について、さらに変化の時代にも必要とされるマギーズセンターの存在意義などについて語ります。
対談前半「今こそ語りたいマギーズ流サポートのこと」の記事はこちら
Laura Lee (ローラ・リー)
マギーズキャンサーケアリングセンターCEO
マギー・ジェンクスさんを担当した、がん専門看護師。マギーさんの発案からエジンバラセンターを立ち上げ、その後現職となり英国内外27カ所のセンターを牽引する。2019年英国女王からDame(デーム:社会に貢献した個人に贈られる一代貴族の称号)を授与された。
秋山正子
マギーズ東京センター長
実姉のがんの在宅ケア経験から訪問看護師に。医療や介護について気軽に相談できる場をと、暮らしの保健室を開設。マギーズ東京を共同代表の鈴木美穂とともに設立し牽引。2019年、赤十字国際委員会からナイチンゲール記章を受章。
COVID-19影響下の困難な時期
「HERE WITH YOU」に込めた思い
- 秋山
- 環境や自然が大事になってくるという認識とともに、マギーズセンターでは「HERE WITH YOU」という言葉を今とても大切にしながら、国際ネットワーク全体でアピールしていこうとしていますね。日本語としては、「あなたとともにいる」なのですが、マギーズセンターが「HERE WITH YOU」を大切にしている理由と、言葉に込められた思いなどをお聞かせください。
- ローラ
- この「HERE WITH YOU」というのは、私たちはここにいますよ、の意味です。サポートを必要としている人に対して、もし私たちに寄りかりたいときは寄りかかって大丈夫ですよ、私たちはここにいてあなたが必要なだけ寄りかかっても倒れませんよ…という意味で「HERE WITH YOU」なのです。
- 秋山
- なるほど。一般的ながんの支援の考え方とはどう違うのでしょうか
- ローラ
- 「HERE WITH YOU」の対極は「Here to help you」でしょうか。一般に言われているがんのサポートであり、「私たちはここにいて、あなたをお手伝いします」ということですね。この場合は、計画を持っているのはお手伝いする側(医療側やサポート側)ですし、そのプロセスを引っ張っていくのもお手伝いをする側ですが、「HERE WITH YOU」では主体となるのはがんに影響をうけているご自身の側なのです。「実際にどのように、どれくらい時間をかけてやるのかを決めるのはあなたですよ」「あなたができるように私たちマギーズセンターは傍にいて必要なサポートをします。あなたができるように背中を押しますよ」というのが「HERE WITH YOU」です。私たちの存在はあなたのニーズによって変わりますし、私たちが何かを押し付けることはしません、というメッセージが込められています。
- 秋山
- とても大切なことですね。
- ローラ
- また、この「HERE WITH YOU」のサポートは、東京でも英国のマギーズセンターでも同じ理念のもと行われていることで、場所によって変わるものではありません。ここにとてもよい例があります。東京と英国の両方でマギーズセンターを利用された方がいるのですが、場所は変わってもそこには同じ「HRER WITH YOU」の姿勢のチームがいて、同様のサポートを受けることができたそうです。素晴らしいと思います。
- 秋山
- 本当ですね。ご本人が主体で、自分自身の力を取り戻すために水先案内するような姿勢は、マギーズ東京も同じです。
もうひとつお尋ねしたいのは、ローラさんがマギーズセンターにスタッフを迎えるとき、どんな点を重視していますか?
- ローラ
- まず専門家としてのプロフェッショナリズムを持っていること。人を思いやるケアができる(人に寄り添える)感性を持っていることは重視していますね。同時に、アントレプレナーの精神を持っている人。アントレプレナーとはビジネスを起業するという意味でも使われますが、個人として正しいことをする、人に指示されたから動くとか、きまりに従うだけではなくて、個人としてこれが正しいと思ったことをゼロから始める開拓者のような意味があります。たとえば優れた心理を専門とする人や様々なスキルを持っている人が、そこで立ち止まるのではなくて、そのスキルを使って今自分の目の前にいる人に対してどうすればベストを尽くせるか、その人に対して何ができるかを常に考える姿勢、私はそういうところを見ています。
また、マギーズセンターにぴったりな要素を持っているな、という直感の部分もあるかもしれません。
- 秋山
- つまり、今ローラさんがおっしゃったスキルや姿勢を持つスタッフがマギーズセンターにいるということですね。
マギーズセンターが必要とされる
英国・日本での存在意義
- 秋山
- 次にマギーズセンターの存在意義についてお話を進めていきたいと思います。まずマギーズ流サポートの中の要素として「Educating(育む), Informing(情報提供する), and Empowering(エンパワーメントする)」という3要素を挙げておられますが、その理由を教えていただけませんか。
- ローラ
- 実際にがんに影響を受けた方々が、私たちにお話してくださる気持ちに、自分は統制感を失った、自分で生活をコントロールできなくなった、希望がなくなった、やっても何もならない気がする、孤独に感じる、ほかの人から孤立してしまったような感じがするなどがあります。その人たちを支えていくためには、自分の生きる道をみつけていくための方向付け、航路を見つけてナビゲーションしていくということが非常に重要になってきます。そこで大切にしているのが先の3要素です。
- 秋山
- エンパワーメントについてもう少し聞かせていただけますか。
- ローラ
- まず自分で情報を持ち、自身をより理解できるようになること。専門職のサポートや似た状況にいる仲間のサポートを受けることで自分がよい方向に向かっていくと感じられるようになること。それらをふまえて、自分が不安であったり、不眠であったり、ひどく心配な気持ちであったり、それに対し自分自身で対応できるようなスキルを身に着けられるようにすることをエンパワーメントと言っています。
- 秋山
- はい。
- ローラ
- 必要なのは、正しい情報を得られて、自分のものとして身に着けられるようにすることだと思います。そこではじめて自ら道を探していくスキルが身につくと考えています。
- 秋山
- この困難な時期を過ごすにあたって、どういうサポートが必要であるかを表す言葉でもありますね。前にも、設立当初は25年経ったらがんが減ったり、医療も進歩してマギーズセンターはなくてもいい状態になるのでは、というお話がありましたが、実際は日本の死因の1位はずっとがんがトップ。男性の方が罹患率は高くて約6割、女性で4割強という、結局人口の約半分の方はがんになるという時代です。今もマギーズセンターは必要とされているし、今後ますます必要とされていくだろうと思います。これから先にめざすものを、ローラさんはどのようにお考えですか?
- ローラ
- これから先、医学の発展に伴いがんの治療も進化し、人々のライフスタイルが変わって、がんの発症がなくなったとしても、私たちの専門性を必要とする人はいるでしょう。まだ先の話かもしれませんが、そのような時代が来たら、がん以外の難病の方々にもマギーズ流サポートを応用できると思います。
- 秋山
- マギーズ流サポートは、がんと共に生きる方々やご家族などが、自分の力を取り戻していくプロセスをとても大事にして、そこを応援するというスタイルです。これまでの医療側が主導権を握って関わるというのとは違ったアプローチの仕方で、新しいスタイルだと思うのです。マギーズセンターで試みられたことは、今後ほかの医療の現場でも使われていくのではないかと思います。25年前から、とても重要なことに挑戦してきたのではないかと思っているところです。
- ローラ
- 私より上手に表現してくださって、ありがとうございます。
- 秋山
- それでは最後になりますが、マギーズ東京に期待するものをお聞かせいただけますか。マギーズ東京もチャリティによって支えられています。今後も多くの方のご支援をお願いしていきたいと思っておりますので、ぜひ支援を頂いている皆様へのメッセージもお願いします。
- ローラ
- 過去には、医療側が行ってきたサポートと、治療を受けている方やご家族が必要としているサポートに大きなギャップがありました。そのギャップを今までのルートとは違うところから埋めていこうとしているのがマギーズセンターです。マギーズ東京は本当に素晴らしいお仕事をこれまでもやってきました。しかし、がんのサポートには、私たちが必要と感じるところがまだたくさんありますので、それらを可能にするためにも多くの方々のお力が必要です。
- 秋山
- マギーズセンターはCOVID-19感染が拡大するさなかでも、電話がつながったし、また扉を閉ざさずにいたという実績を積み上げてきました。医療機関や他の相談窓口がつながらない時でも、マギーズ東京にかけるといつも電話に出てくれる人がいて、必要なだけ話を聞いてもらえる安心感があるとご利用者さんから言われています。
- ローラ
- そして、日本にマギーズセンターが東京に1か所だけでは十分とはいえません。これから日本全体にマギーズのサポートを届けていかなければなりません。そのためにもサポーターの皆さん、投資家の皆さん、ファンドレイザー(活動資金調達職)の皆さんに、お願いしたいことは、マギーズが活動の幅をさらに広げられるように、ぜひご支援をお願いいたします。将来もっと多くのドアが開いて、もっと多くの人がそこでサポートが受けられるように皆さんのお力をください。
- 秋山
- 私たちも同じ気持ちです。ローラさん、本当にありがとうございました。
Text: Sachiko Hamabe
Photo: Genki Moriya
Interpretation: Kayoko Shigematsu
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