MAGGIE's Everyone's home of cancer care

認定NPO法人 マギーズ東京

私とマギーズ東京 山本康太さん 〜20代でがん発覚、仕事と治療に悩みマギーズへ〜

2021/11/02

がんになってからの感情を整理できて
初めて“これから”を意識できるようになりました

「私とマギーズ東京」では、実際にマギーズ東京を訪れた方々の体験談をご紹介していきます。今回は、治療しながらの仕事に悩み、マギーズ東京を訪れた山本さん。しばらく足繁く通い、話をするうちに「自分自身で、やりたいことを考えられるようになった」と言います。一歩を踏み出すまでの山本さんのストーリーをご紹介します。



家族にも友人にも

つらい気持ちを話せなかった


 28歳で慢性骨髄性白血病の診断を受けました。実は私は当時社会人1年目で、同級生からは少し遅れたけれど、これから仕事をがんばろうと思っていた矢先でした。

 分子標的薬による治療の副作用を抱えながら、新しい仕事に取り組んでいくのは体力的にも精神的にもつらいものがありました。副作用がひどく、食べられない間に体力もどんどん低下していきましたし、薬を調整したり変更したりするたびに、残された治療の選択肢が減っていくような不安もありました。それに加え、高額療養費制度を利用しても薬の支払いが毎月数万円単位だったので、”生きるため”に働かなければというプレッシャーも大きくて。

 でも、そんな不安やつらい気持ちを、周りの誰にも話すことができなかったんです。家族や友人は心から心配してくれて、職場の上司や同僚も、働きやすいよう配慮してくれたのですが、私のつらさの根っこが病気というところにあるため、どうしても深い話ができませんでした。

 もちろん、副作用や医療的なことは都度担当医に相談していて、具体的な解決に繋がることもあったのですが、あなたに必要な治療なのでがんばりましょうと言われると「そうか、がんばるしかないんだな」と、それ以上のことは言えずに帰って来ることも多々ありました。




気づいたら丸一日

初めてのマギーズ東京訪問


 診断から1年半くらいが経ち、誰かに相談したい思いが募っていた時に、インターネットでマギーズ東京のことを知りました。「どんなところかわからないけれど、試してみよう」という気持ちで訪ねていったところ、それまで話せなかった、周りに話しても伝わらなかった思いを初めて話すことができたんです。金銭面、仕事面、医療面、自分の中でもはっきり分けられていないことをひたすら聴いてくれるんですね。休職中で朝イチに行ったのですが、看護師の方とお話をしたり、ただのんびりしたり、新型コロナウイルスの流行以前だったので、ちょうど開催されていたグループプログラムに参加をしたりして、気づいたら閉館の時間になっていました。

 その日参加したのは栄養のプログラムで、管理栄養士の方がかぼちゃのポタージュを作りながら、量が食べられない中でカロリーを摂る工夫なども話してくれました。今私は料理が趣味になっているのですが、じつはこのプログラムに参加したことがきっかけです。その時は、こうやって自分で工夫して作ったりすることで、食欲不振の中でも何か変われるんじゃないかと感じました。



 また別の日ですが、他の利用者の方とお話をする機会もありました。大きなキッチンテーブルに自然と集まった方々のお話を聞いていると、がんの種類は違っても共感する部分があり、視野が広がる経験をしました。

 マギーズ東京には、しばらく週1回くらいは通っていましたが、じつは、初めて自分の名前を伝えたのは、1年くらい経ってからだったと思います。それくらい、私にとっては肩書きや名前も気にせずに、ただ存在していていい場所でした(※)。



できることではなく

やりたいことに目が向くように


 マギーズ東京を利用して、いろいろな変化がありました。一番大きかったのは、がんになってからの自分の感情を整理できたことです。そして、だんだんこれからのことを考えられるようになっていきました。

 当時は、がんばってがんばって、それでも2度目の休職を余儀なくされていて、仕事についてすごく悩んでいた時でした。何度も通ううちに、居心地のいいマギーズ東京に「ずっといたい」「ここで働きたい」と思ったことも。でも、自分軸で考えられるようになってみると、家族や会社などいろんな社会に属している、そのうちの一つがマギーズ東京なんだろうなと、捉え方が変わっていきました。

 「できること」ではなく「やりたいこと」にチャレンジしてみてもいいのではないか、と思い直したのもその頃です。そして私は元の職場を辞めるに至ったのですが、休職中に登録した転職サイトのエージェントの方に、「転職は難しいでしょうね」と言われていました。自分の「できること」から仕事を探そうと、マギーズ東京でどこに具体的な相談をしたらいいかを聞きながら、転職活動についても練っていったところがあります。

 その中で、「相談はできるけども、やっぱり最終的に決めるのは自分なんだ」と徐々に自覚し、マギーズ東京に行く頻度を3ヵ月に1回くらいに減らして、自分で考える時間を持つようになりました。

 約2ヵ月間の転職活動の末、病院に就職が決まり、現在も病気と付き合いながら事務部門で働いています。病気に関わる社会の仕組みを学び、ゆくゆくは、マギーズ東京のような、リラックスして話せる場を作れたらなと、密かに夢見ています。どんな形かはまったくわかりませんが……。



 グループプログラムがきっかけで好きになった料理も続けていて、最近は特に頻繁に作っています。コロナ禍をただつらいだけで過ごしたくないから、自分自身を大切にしていこう、自分のやりたいことをやっていこうと思っています。



※本来は予約不要のマギーズ東京ですが、現在は、新型コロナウイルス感染症への対策として、ご来訪の前に連絡をいただき、お名前を伺っています。

山本さんにもご出演いただいたマギーズ東京5周年スペシャル動画「笠井信輔アナウンサーが歩くマギーズ東京」はこちらからご覧いただけます。

「私とマギーズ東京」では、実際にマギーズ東京を利用された方の体験談をご紹介していきます。

※ご紹介する了承を得られた方に、インタビューにご協力いただいています。

Photo:yu miyai
Text:yasco jimbo


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