MAGGIE's Everyone's home of cancer care

認定NPO法人 マギーズ東京

マギーズセンターCEO ローラ・リー&マギーズ東京センター長 秋山正子 対談 【前半】今こそ語りたいマギーズ流サポートのこと

2021/08/18

マギーズセンターは現在、英国を中心に世界に約30箇所。英国マギーズセンターのCEO、ローラ・リー(以下、ローラ)に、設立からこれまでのこと、2020年に発生したCOVID-19の世界的な流行下における変化などを、オンライン会議システムを使って、マギーズ東京センター長秋山正子(以下、秋山)が聞きました。



Laura Lee (ローラ・リー)
マギーズキャンサーケアリングセンターCEO

マギー・ジェンクスさんを担当した、がん専門看護師。マギーさんの発案からエジンバラセンターを立ち上げ、その後現職となり英国内外27カ所のセンターを牽引する。2019年英国女王からDame(デーム:社会に貢献した個人に贈られる一代貴族の称号)を授与された。

秋山正子
マギーズ東京センター長

実姉のがんの在宅ケア経験から訪問看護師に。医療や介護について気軽に相談できる場をと、暮らしの保健室を開設。マギーズ東京を共同代表の鈴木美穂とともに設立し牽引。2019年、赤十字国際委員会からナイチンゲール記章を受章。

2021年世界的な変化における英国と日本のがんの現状

ローラ
日本の皆さんお元気ですか?そちらの状況はいかがですか。
秋山
東京では6月に入ってもCOVID-19の感染状況が落ち着きませんが、少しずつ気を付けながら毎日仕事をしています。
ローラ
2020年から続く長く厳しい日々に、誰もが精神的にダメージを受けていますね。がんの治療を行っている方々にも大変な時期だと思います。

秋山
そうですね。東京では緊急事態宣言が3回ほど発令されて(※)、人々が引き離されて家に籠りがちな傾向が続いています。

(※)2021年6月1日現在。7月12日に4回目の緊急事態宣言が発令された。

ローラ
イギリスではCOVID-19の影響で、病院での診断が遅れて治療の開始も遅れるという事態に心を痛めています。
秋山
日本ではがん検診に行けないために、診断の遅れるケースがあるようです。さらに、がんを経験している人が、より強い孤立感を感じていることも心配です。いつもと違う環境を不安に思い、私たちを訪ねてこられるケースが多いので。
ローラ
イギリスも状況は同じですね。がんに影響を受けると、ただでさえ孤立感が深まる傾向にあるもの。今までだったら診察に家族が同席できたり、入院中もお見舞いができたりしました。でも、今はそれができない。医師から説明を受けるときも、治療を受けるときも1人。自分と同じような立場の人と話ができる場も少なくなっている。このため、自分だけがこんな経験をしているのではと思い込んでしまうようです。
秋山
そうですね。
ローラ
しかし、このような厳しい状況下でもマギーズセンターは扉を開け続けました。そのことがとても嬉しかったとのお声をいただいています。
秋山
マギーズ東京でも、2020年5月の緊急事態宣言下に2か月間だけは対面での相談は休止しましたが、オンラインを使いながら扉を閉めずにきました。現在でもオンラインや電話での相談も続けています。ご利用者さんが話をされるうちに声のトーンが明るくなっていくという様子を、私たちは日々経験しています。

ローラ
そうですね。安全に扉を開け続けたことを誇りに思ってください。

創設当時から大切にしている “マギーズ流サポート”とは

秋山
がんに影響を受ける方への心理社会的なサポートが、長期にわたって必要なことが増えてきていると感じています。英国のマギーズセンターは1996年からスタートしましたが、当時から現在に至るまでの”センターでのサポート”について、改めてお聞きしたいと思います。
ローラ
英国のマギーズセンターも創設当初はパイロットプロジェクトとして動き始めた経緯があり、当時は本当にうまくいくのか、本当に続けられるのか、私たちも確信はありませんでした。
そして25年後を考えたとき、がん治療も進歩して、がんで亡くなられる方は減って、がんとともに生きる方が多くなるだろうと想像していました。治療が進歩するおかげでマギーズセンターが関わるニーズは少なくなるだろうと思っていました。
1996年にオープンしたマギーズセンター第一号、マギーズ・エジンバラ

秋山
実際はいかがでしたか?
ローラ
ところが思ってもみないことが起こりました。そのひとつが、がんと診断される人が増えたこと。当時は4人に1人ががんになるといわれていた時代でしたが、今は2人に1人といわれています。 また、がんとともに生きる期間が延びたことにより、再発を繰り返しながら長期治療していらっしゃる方が多くなりました。がんの治療を受けて寛解して、少し治療をしなくてよい時期があって、また再発をして…この繰り返しは、ご本人はもちろんご家族にもさまざまな影響を与えています。25年経てばマギーズセンターはあまり必要なくなると思っていたのは大間違いで、これまで以上に必要度を増しています。
秋山
まったく同感です。マギーズ東京はまだオープンして5年ですが、その変化は手に取るようにわかりますし、とても共感します。
ローラ
人々の考え方や環境・風土の変化による発想の転換も起きて、特にこの1年はCOVID-19の影響下でニューノーマルと呼ばれるライフスタイルへと移行しました。かつては治療に対して受動的な姿勢でしたが、今はご本人もご家族も、臨床チームと協力しながらセルフケアをしていく気持ちが強くなっています。それを叶えるために日々の暮らしの中でさまざまなことを徹底していかなければならないので、マギーズセンターの支援の意義が今まで以上に深まっている状況です。
秋山
病院などのサポートと、マギーズセンターでのサポート、つまり”マギーズ流サポート”との違いはどこにあるのでしょうか。
ローラ
マギーズセンターを訪れた方がおっしゃるのは、「マギーズのスタッフは“見る視点”が違うと。医療の現場だとどうしても医学的な治療が中心になってしまうけれども、マギーズでは“自分の生き方”が見出せる。がんによって自分が思い描いていた道が変わるかもしれない、自分の生きる期間もひょっとしたら変わるかもしれない、それでも自分の道を歩いていけると、前向きな気持ちにさせてくれるのがマギーズだ」とおっしゃっています。

秋山
そうですね。その境地にたどり着くために、マギーズセンターは建築を含めて環境面にもとても力点を置いていて、それも他の相談支援とは違う要素だと思いますが、いかがでしょうか。
ローラ
おっしゃる通りです。建物や自然が織りなす景観の重要性が、特にCOVID-19の?影響でより顕著に表れたと思います。マギーズセンターのがんに関するエキスパートがサポートをする際にも、素晴らしい環境下で行われることで、そのサポートを強化していると実感します。
よく私たちは「Beauty」という言葉を使います。単に物理的なものに対する美だけではなくて、人々とふれあって、人々に受け入れられることから生まれる美しさというものもあります。「Beauty」は非常に重要で、その本質について学びを深めています。
秋山
私たちもここ数年、マギーズ東京周辺での、ガーデン作りを通して地域の方と「Beauty」を一緒に作り上げてきました。花と緑に囲まれて思うのは、自然がとても重要な役割を果たしているということです。マギーズセンターの環境や建物、それから周りの庭を大切にするコンセプトを、私たちスタッフもとても良いものだと実感しています。
花と緑に囲まれたマギーズ東京

ローラ
非常に重要なことですね。自然は季節の移り変わりとともに刻々と変化しています。その自然の中に身を置くことによって、私たちは「時の流れ」について話ができます。刻々と過ぎていく今の瞬間、瞬間を大事にする意味について話を続けることができます。がんを患ったことで、時の流れによる変化を負の意味で捉えがちですよね。
秋山
そうですね。
ローラ
治療によって自分にこういう変化があったとか、死に近づくことによってこう変わっていくとか。つらい見方で受け止めていたこと、話すのが非常に難しいテーマについても、自然という大きな存在、その中での時の流れがそばにあることによって、とても意味のある形で会話ができるのです。自然に囲まれると、私たちも生態系の一部なのだとより実感しながら生きていくことができる…そういう意味でも環境や自然は今まで以上に重要になってくると思います。

後半「『HERE WITH YOU』というメッセージに込めた思い」に続く
8月下旬公開予定)

Text: Sachiko Hamabe

Interpretation: Kayoko Shigematsu

Photo: Genki Moriya

             Koji Fujii/TOREAL


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