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認定NPO法人 マギーズ東京

気づいて、感じて、大切にしたい 私の小さな幸せ 麻倉未稀さん

2021/09/27

PROFILE: MIKI ASAKURA

1981年デビュー。復帰後は歌手活動を継続する一方、地元である神奈川県藤沢市で、乳がん検診を啓蒙する「ピンクリボンふじさわ」の実行委員長としても積極的に活動。

ずっと歌ってきた 愛する歌を守ることで 乗り越えることができた



テレビ番組の企画で乳がんが発覚して


 「ヒーロー」、「What a feeling」などのヒット曲で知られる歌手の麻倉未稀さんは、2017年4月に出演したテレビ番組の企画で受診した人間ドックで乳がんが発覚。6月には左乳房の摘出手術を受けることになるが、一連の流れの中心には常に“歌”があった。


 「デビュー35周年を迎えて忙しくしていたこともあり、人間ドックを受診するタイミングを逸していたんです。そんなときに、テレビの企画が持ち込まれて。この機を逃すと、またズルズルと先延ばしにしてしまいそうなので、お受けすることにしたのですが、そこで左胸に悪性腫瘍が発見されました」 


じつは、その少し前から胸に違和感を覚えていたという麻倉さん。告知を受けたときは「やっぱり」という感覚だったという。


「十数年前にも『乳がんの疑いあり』と指摘されて経過観察をしていた時期もあったので、思ったよりも冷静に受け止めることができました。それよりも、この後の仕事はどうしよう、治療はどうする、がんは公表するべきことなのか、そんな現実的なことで頭がいっぱい、というのが正直なところでした」


 都内から自宅に戻る1時間弱の電車の中で、麻倉さんは一つの考えに至る。


「この電車の中で結論を出そう。そうじゃないと、いつまでも迷って決められない。そう思ったんです。その上で、やはり私は歌手であり、その自分が今、テレビ番組の企画という形でこの病気に出会ったことにはきっと意味がある。ならば、番組でがんを公表しよう。がんに向き合っている方々に、一緒に頑張ろうというメッセージを伝えたい。『ヒーロー』を歌い続けてきた自分にとって、それが一番ふさわしいはず。そんな考えに落ち着きました」


 麻倉さんにとって、生きることとは、すなわち歌うことでもある。治療方針を巡っても“歌”を守ることは大切なテーマだった。



「未稀さんと一緒にいるとパワーをもらえます」(牧山さん)

手術から3週間で復帰のステージに立つ


 「私が最初に考えたのは『歌をとるか、胸を残すか』ということ。乳房を切除することで歌えなくなってしまうとなれば困るけれども、担当の先生からも『手術をしても歌は続けられる』とおっしゃっていただき、迷いなく手術という方法を選びました」


 手術を受けたのが6月22日。3日後には歌うことを再開した。いざ発声してみると、やや体幹がずれていると感
じるものの、しっかりと歌うことができた。そして、その3週間後の7月14日には復帰ライブのステージに立っていた。


「手術前から決まっていた日程だったんですが、この日を復帰の目標にしようと。今振り返ってみると、少し無理をしたかなと思わなくもないですが(笑)、お客様の前でまた歌うことができて、本当に、心からうれしかった。私にとって歌うことは日常ですが、その日常が守りたい大切なものだということに改めて気づけた。だからこそ、がんを克服できたと感じます」


 共演する機会も多いバイオリニストの牧山純子さんは、がんを経た麻倉さんの変化をこう語る。


「未稀さんご自身も驚いていらっしゃるんですが、じつは復帰前と後とで声や歌い方が変わっているんです。がんを乗り越え、その経験も織り込んで、さらに素晴らしい歌を届けてくれるようになって。私も隣で演奏しながら感動しています」


 テレビ番組の企画から始まった、少し特殊な麻倉さんのがん体験。プロの歌手として、代わりがきかない存在だからこそ、迷いを振り切れたし、大胆に決断できた部分はあるかもしれない。


「でも」と麻倉さんは言う。


「それは歌手という職業に限らないかもしれません。誰もが、例えば一番大切な家族を守りたい、そんな想いを根底に置いて、自分はどうするべきなのかを考えてみる。そうすれば、がんに対しても前向きに向き合っていけるのかな。そんな風に思っています」





本記事は、2018年に情報誌HUG「私の小さな幸せ」でご紹介したもので、記載内容は当時のものとなります。
WebマガジンHUGの掲載に際して、麻倉さんからメッセージが届いてます。


「がんに罹患して4年、元気に過ごしております。コロナ禍でステージで歌えない日々が続いておりますが、歌や音楽はいつも私に勇気と力を与えてくれます。」

Text & Composition: Keiichiro Koumura
Photo: Hitomi Kosaka

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