落ち着く、向き合う、前に進む 告知直後にやるべき10のこと
2021/08/18
告知された直後は、“まさか自分が? とにかく怖くて……” みんな不安な気持ちでいっぱいです。でも、大丈夫。まずは落ち着いて、 自分の状況や気持ちと向き合い、しっかり納得のいく選択をし、 前に進んでいくことが大事。大切なステップを踏んでいくためにやるべきことを経験者のアドバイスから、導き出しました。
STEP 1|落ち着く
STEP 2|向き合う
STEP 3|前に進む
STEP 1|落ち着く
1:心を落ち着ける
がんになっても明日死ぬわけではない。まずは冷静になること。
深呼吸。
(T.Kさん 39歳・女性)
自分に対して、 「強くなれ、強くなれ」と言い聞かせた。
(A.Eさん 49歳・女性)
過去のことは変えられない、 自分でコントロールできないことは悩んでも仕方がない。
未来は自分次第。
(O.Hさん 45歳・男性)
落ち込んでから、治療と向き合えるように
まずは深呼吸。最初は落ち込んだけれど、毎朝「今日も生きてる」と実感して「そう簡単には死なない」と感じた人も。がん経験者が身近にいた人は、「がん = 死ではない。治療しよう」と思えたそう。
2:大切な人に伝える
無理せず、伝えたくなったらでいい。必ずあなたを支えてくれる。
趣味の登山や自然探検の仲間が、「早く戻っておいで!」と声をかけてくれた。
(H.Mさん 25歳・女性)
両親は、 「全力で守るから安心して」と言ってくれた。
(Kさん 46歳・女性)
夫に「どのみち 人間の致死率は100%なんだから」 と言われ、 ホントそうだと思った。
(Y.Tさん 56歳・女性)
妻と婚約中だったが、 病気を伝えても「結婚する」と言ってくれた。
(Yさん 38歳・男性)
幼い子ども達の生活と治療、 夫が「休職して家族を 支える」と言ってくれ、心が軽くなった。
(Yさん 40歳・女性)
温かい言葉や気遣いが、心の支えになる
両親、パートナー、妹、恋人、友人、医療従事者、がん経験者など、様々な声が寄せられた。「大丈夫」 「ちゃんと治療していこう」。心許せる人の温かい言葉は、前向きに治療と向き合うきっかけに。
3:慌てて仕事をやめなくていい
周りに迷惑をかけまいとやめてしまい、後悔している人も多い。
がんを経験した後、 社会復帰して活躍している人を探して勇気づけられた。
(N.Kさん 44歳・男性)
職場にきちんと自分の状況を伝えて、相談して働ける環境を整えた。
(E.Fさん 47歳・女性)
仕事に没頭。
職場の人に、早めに相談して一緒に悩んでもらった。
(T.Kさん 32歳・女性)
治療が落ち着けば、復帰も考えられるように
「自分から復帰の道を閉ざさなくてもいい」「迷惑かけると自分を責めない」というアドバイスも寄せられた。働きながら治療する人もいる。まずは治療を優先して、職場に働き方を相談しよう。
仕事、辞めなくて 良かった……!
T.Aさん(44歳・女性)の場合
Q 告知直後、仕事のことを考えましたか?
娘と入浴中に胸のしこりに気づいて、検査の結果、乳がんが発覚しました。告知を受けたときは意外と冷静で、手術をすればすぐに仕事に戻れるという感覚でした。術後に 抗がん剤をしなければいけないと言われて、復帰のイメー ジが想定と大きく変わって、初めて現実を直視しました。 そのときの方がショックは大きかったです。理学療法士は体を使う仕事なので、どれくらいで戻れるのかがわからなくて悩みました。続けられるのかという葛藤はありましたが、辞めない方法や働き方を模索して、周りの経験 者からアドバイスをもらいました。
Q それで、仕事の調整はどうしましたか?
社会とつながっていたかったので、辞めることは最後に考えようと思いました。私の場合は、直属の上司に話して人事に伝えてもらいました。経過報告はメールで、退院後は職場に行けそうなときに顔を出すことから始めました。復職しても、すぐフルスピードに戻ろうと思わず、生活サイクルを慣らすことから始めること。リハビリ中の患者さんは、「職場からいつ戻れるのと聞かれても答えられない」「迷惑がかかるので辞めようと思う」という人が多いです。私は、復帰後あせりすぎて別の病気になりまた休職しました。長く働くためには、自分の体調を受け入れてブレーキをかけたりして減速して進むことも必要です。
企業の人事担当に聞きました!
病気になったとき、 相談してほしいこと
カルビー株式会社
常務執行役員
人事総務本部長
武田雅子さん
「働きながら治療できる病気に。両立を考えて」
「一時の感情で辞めないこと。まずは治療のことを考えて、使える休暇の種類や関連する就業規則、健保のルールを調べましょう。病理の結果が出てからになりますが、治療の見通しや働きたい意思を上司に伝えてください。何かあれば人事も相談に乗ります。まずは自分の持てる選択肢を知りましょう」
STEP2|向き合う
4:治療の情報を得る
医者や専門家から、正しい知識を得よう。セカンドオピニオンも。
疑問は、医師に質問して解消を。そのためにノートを用意して予習・復習した。
(O.Tさん 55歳・男性)
冷静に医師の話を聞けないと思うので、 誰かに来てもらうか、録音して聞き直すといい。
(S.Tさん 33歳・女性)
告知後、治療の説明を受けるまでの間に、聞きたいことを書いてリストにした。
(Kさん 55歳・女性)
正しく理解して、納得できる治療法を
誰かと一緒に聞くなど、医師と話すときに工夫している人が多かった。治療方針や心身への影響、副作用などは「遠慮なく医師に質問を」の声も。セカンドオピニオンを聞くのもいいだろう。
告知を受け知りたいと思ったことは何でしたか?(複数回答)
経験者が語る「これを知って安心できた!」
同じ治療をして元気にしている人の話が聞けて、前向きなビジョンを持てた。
(F.Mさん 34歳・女性)
乳がんなら手術の方法と術後の胸の形。
子どもを望める歳なら 妊孕性(にんようせい)の温存について聞いてほしい。
(S.Tさん 33歳・女性)
治療などの情報を何から得ましたか?(複数回答)
治療に関して、医師に聞いておいた方がいいことは?
治療法のメリットとデメリットを聞く。
もし提案された治療法に疑問があれば、セカンドピニオンを。
(Tさん 33歳・女性)
どんな治療で、どれくらいの期間が必要になるのかなど、 病気の全体像を把握することが大切。
(Mさん 31歳・女性)
5:使える制度を知る
知らないなんてもったいない! 行政や健保の制度や補助の確認を。
生命保険に加入していれば、契約内容の確認を。 ペーパーワークが多いので、副作用が重くなる前にすませよう。
(N.Kさん 52歳・女性)
会社員であれば、就業規則などを確認すること。
(Kさん 54歳・男性)
会社の福利厚生や、 フォロー体制の確認を。
(O.Yさん 43歳・女性)
使える制度を確認して、ちゃんと申請しよう
自分が加入している生命保険や健保を確認しよう。1カ月の医療費が高額になった場合には、区分に応じて限度額を超えた分が払い戻される「高額療養費制度」がある。治療の際は保険者に申請を。
※企業により対応は異なります。お勤めの企業の人事部などにお問い合わせください。
就労支援するソーシャルワーカーに聞いた!
行政と健保で使える制度
医療ソーシャルワーカー
福地智巴さん
「治療や療養を中心とした生活に見直しを」
「告知により生活や仕事への不安が生じると思いますが、治療や療養を中心とした生活の意識を持つことが大切です。家庭内の役割や経済計画といった生活設計の見直しも必要です」
行政の支援制度例
医療費の負担軽減のために高額医療制度を利用する場合、「限度額適用認定証」も保険者に申請し病院に提示しましょう。払い戻しが簡素化され用意するお金が少なくてすみます。
健保の支援制度例
健保には休職時の収入を補てんする「傷病手当金」制度があり最長1年半支給されます。条件を満たせば退職後も受給できます。退職すると申請できないので在職中に手続きを。
6:自分の気持ちと向き合う
改めて自分がどう生きたいかを考えてみよう。
「1年後、 どうなっていたいか」「欲しいもの」を、 希望ノートを書いた。
(T.Kさん 39歳・女性)
「自由になる時間」に やりたいことをたくさん挙げる。
(K.Mさん 32歳・女性)
治療の先にある 生活をイメージする。
やりたいことや行きたい場所を思い浮かべて前向きになれた人や、日常生活を取り戻すために「早く元気になりたい」と思えた人も。書き出すことで気持ちが整理されるかもしれない。
STEP 3|前に進む
7:治療を選ぶ
しっかり自分の状況を把握した上で、納得のいく治療を選ぼう。
2つの治療法で迷ったとき、医師に「先生の大切な人だったら、どうしますか?」と聞いた。
(H.Mさん 25歳・女性)
転院して、相性のいい主治医に出会えた。
疑問を感じたら、 他の病院を検討してもいいと思う。
(Nさん 34歳・女性)
がん治療中の家族がいて、「標準治療を受けるのが当然」 という思いがあった。
(Yさん 40歳・女性)
あなたが納得できる 治療を選択しよう
「標準治療」は、科学的根拠に基づき現在利用できる最良の治療とされ、一般的な患者に推奨される治療のこと。主治医の説明や治療方針などをふまえ、 自分に合った治療を選ぼう。
8:仲間と出会う
がんと闘う仲間がたくさんいる。良い情報や勇気をもらえる。
若年性がん患者の会 「STAND UP!!」に参加。 みんなが笑顔で希望をもらった。
(S.Tさん 33歳・女性)
患者会に参加。 仲間に出会い「ひとりじゃない!」と孤独感から解放された。 これからも大切な仲間。
(S.Tさん 47歳・女性)
治療中に、 Facebookで病気を告白。
たくさんの友人や経験者が応援してくれた。
(T.Eさん 36歳・女性)
患者会やSNS、仲間だから相談できることも
告知直後、不安を抱えて泣いていた人も経験者の笑顔を見て元気をもらったようだ。「気兼ねなく話せる場所ができた」という声も。がん診療拠点病院の相談支援センターには地域の情報がある。
仲間と出会う方法
● マギーズ東京
がん患者やその家族らが、いつでも気軽に治療や日々の生活を相談できる英国発祥の支援施設。
● 患者会
地元の患者会を、検索して探してみよう。がんの経験を生かして、自分で患者会を立ち上げた人もいる。
● SNS
FacebookやTwitterでコミュニティや仲間を探そう。
Instagram で病名などを #で検索すると仲間が見つかることも。
● 相談支援センター
各地のがん診療拠点病院にあり、各地域にある患者会や交流の場についての情報を集約している。
9:職場に働き方を相談する
職場に治療中の働き方や、休職を希望する場合などの相談をしよう。
信頼できる上司に 病気を伝え、 余裕をもった復帰時期を報告しよう。
(B.Mさん 36歳・女性)
職場へ相談すると病状を理解し治療と業務の両立に協力してくれました。
(S.Hさん 51歳・男性)
まずは希望する働き方を相談しよう
休職する人も治療しながら働く人も、治療計画をふまえて上司などに働き方の相談を。治療を優先してゆとりを持った見通しを伝えよう。「そんなに頑張って早く復帰しなくてもいい病気」の声も。
10:体力づくりをする
治療中は体力の低下を感じる人が多い。軽度の運動は気分転換にも。
術後3カ月で、 ヨガを始めた。 ヨガ愛は止まらず、インストラクターの資格を取った。
(O.Kさん 54歳・女性)
ゴルフに行くために、 クラブを新調して練習場に通うように。体力を落とさないようにした。
(G.Mさん 51歳・女性)
写真の勉強を始めた。 必然的に外出でき、早く歩けなくても周囲にゆっくり目を向けることができた。
(T.Eさん 45歳・女性)
体調の良い日は、なるべく体を動かそう
多くのがん経験者から「家にこもらない」「体を動かす習慣を」などのアドバイスが寄せられた。趣味や好きなことで体を動かして気分転換している人も多い。体調に合わせた体力づくりを。
※運動は、体調に合わせて担当医やリハビリ医の指導のもと行いましょう
国立がん研究センターが紹介する
治療中に効果的なトレーニング
1 ウォーキング
楽に運動ができ呼吸も乱れず少し汗をかく程度の呼吸で、20〜30分間。週3〜5日行うのが理想的。
2 自転車エルゴメーター
エアロバイクともいわれる自転車の形をした室内用の運動器具。ウォーキングと同じ有酸素運動。
3 ストレッチ
軽い筋力トレーニングやストレッチも、機能を維持するために有効とされている。
心を落ち着かせて、治療と向き合い、前に進んでいくための10のアドバイス。 仕事、仲間、体力づくり……
経験者たちの貴重な声が参考になるはずです。
※記事内のデータおよびアンケートは、2017年5月に行った HUGアンケート104名(20~50代の男女)の回答によるもので、この記事は、2017年10月10日発行「『HUG』1周年記念号」に掲載されています。
Text: Kaori Sasagawa
Composition: Naomi Oguriyama
mugny(まぐにー)(イラストレーター)
関西出身のイラストレーター。日常の感じたことをイラストにしWEBで発表している。
twitter/Instagram:@mugnypic